インダストリー・ソリューションズ - overview


IBMでは、さまざまな業界が直面している課題に対してITの力による解決策を提供してきました。近年は特に従来的な意味でのITシステムだけでなく、より広い範囲で、お客様にビジネス上の成果をもたらすためのソリューションが求められています。 Industry Solutions Researchでは業界やお客様の深い知見をもとに、高度なソフトウェア工学、コンパイラー、アナリティクス、シミュレーションなどの技術とノウハウを投入することによって、特に製造業、天然資源、自治体などの公共部門の持つ課題に対して、先進的なソリューションを提供するための研究を行っています。


Competency fields

  • レジリエンス・エンジニアリング
  • レジリエンス・エンジニアリングでは、企業から都市までの幅広いエリアでビジネスやサービスをよりレジリエントにしていくにはどうするかということを目標とした研究をしています。レジリエンスとは、何か緊急事態が起きた場合にいち早く元の状態に戻ることができるという性質や性能を表します。ただ、緊急時のことだけを考えるのではなく、同じシステムが、通常時にも活用されていて、なおかつ、緊急時にも活用できるというのが理想の形態です。このようなシステムを実現するためには、環境のモニタリング、予測モデルに基づいたリスク推定、リスクを低減するアクションの提示による人間の意思決定の支援などが必要となります。具体的には、気象や交通のシミュレーションによる意思決定支援技術やソーシャルな情報統合・分析の活用技術などの研究を実施しています。

  • モデルベース・システムズエンジニアリング(MBSE)
  • 単一のシステムやサービスであっても、その構成はますます複雑になり、二つ以上の分野の技術が複合して利用されるようになってきています。たとえば自動車は、内燃エンジンや電磁気モーター、ギヤボックス、制御ソフトウェアや車載ネットワークなどで構成されています。電車代の支払いサービスは、自動改札やクレジットカード決済、電子マネー決済の複合システムです。都市も、エネルギーやヘルスケア、移動手段、ホーム、工場、その他、多くのシステムやサービスの集合体です。「システムズ・エンジニアリング」は、そのような多数の分野に渡る、システムのシステム(system-of-systems)を捉えて設計するための概念です。モデルに基づくシステムズ・エンジニアリング(model-based systems engineering: MBSE)は、特に、V字開発の左側の上流、すなわち、要求分析やアーキテクチャ設計、詳細設計のプロセスをカバーすると期待されています。また、SysML はそれらの複合した分野のシステムを記述するのにもっとも期待されている言語のひとつです。東京基礎研究所の MBSE プロジェクトは、複数のゴールや目的を持って行われています: 

    (1)インダストリーをリードするお客様とともに、モデルに基づく開発手法(model-based development: MBD)の構築
    (2)SysML のような、nb記載の複雑なシステムモデリング言語でも、誤りなく短時間で編集作成できるインターフェイスの開発、たとえば、単純な表形式を利用した編集方式の開発
    (3)大規模な観測データを解析することによって、システムを実用上に十分な精度を持ったモデルとして同定するための新技術の開発
    (4)異種混合のデータベースに基づくシステムを互いにシームレスに接続して、透過的に参照および編集することのできる基本技術の開発、などを進めています。

  • 連成シミュレーション・ハブ
  • 実機によるテスト、すなわち、プロトタイプを作成して測定機器などのアセット上でテストを実施することは、設計上の問題を解決するためには重要な作業です。しかし、そのようなテストにかかるコストは、「リグからオフィス※1」やフロント・ローディング※2の概念が示すように、実機のハードウエアを仮想化して、コンピュータ上のモデルによるテスト作業に移行することにより、大幅に削減することが期待されています。また、世界中に分散して配置された研究開発センターや合弁会社の中で、統合テストを行う際にも大いに役立つでしょう。Co-simulation (連成シミュレーション、co-operative simulation とも呼ばれる) とはシミュレーションの方法論であり、モデルの個々のコンポーネントを独立に異なるツールやアルゴリズムで同時にシミュレーションしつつ、個別の通信ポイントでデータ交換することを可能にします。東京基礎研究所では、次の技術的観点にフォーカスして co-simulation の技術を研究開発しています。

    (1)スケーラブルな統合シミュレーション: 複数のシミュレーションのコンポーネントを、やはり複数の計算資源の上で効率よく同時に実行することにより、コンポーネントの数が増えても全体のシミュレーションにかかる時間が増加しない仕組みを研究開発しています。
    2)精度の落ちない並列シミュレーション: シミュレーションの実行速度を上げるために並列同期の間隔を粗くすると、シミュレーション結果の精度が下がります。シミュレーションの速度と精度はこのようにトレードオフの関係にありますが、イベントとタイムラグに基づく並列実行の手法を考案して、並列性(速度)と正確性(精度)の両方を満足する方式を研究開発しています。
    (3)リアルタイムのシミュレーション: 並列化によりスケーラブルなシミュレーションが可能となっても、全体の時間を支配するのはもっとも遅いコンポーネントです。リアルタイムよりも時間がかかるなら、全体のシミュレーションを実機ハードウエアと組み合わせることができません。多くのシミュレーション・モデルは常微分方程式に基づいているので、これを数学的に等価に分割して並列に計算することにより、さらに高速化する手法を研究開発しています。
    (4)オープンなハブ構成: シミュレーションのユニットに上記の方式を加えて、簡単に相互接続できるようにするためのプラットフォームを研究開発しています。

    ※1:実際の設備上で行うテスト手法から、シミュレーションによってオフィスで仮想的に行う手法へ移行することを指した言葉。(リグとは海底油田の掘削設備を指し、転じてテストの測定機材などを指して使われる)
    ※2:設計開発の後段の実機テストのプロセスを仮想化して、前段の設計段階に前倒しすること。

  • エンジニアリング情報統合技術
  • 自動車や電子機器などの複雑な製品の開発は、仕様策定、ソフトウエア開発、機械設計、電子回路設計、試作、試験など多岐に渡る分野の技術を組み合わせることで実現されます。ところが各分野の専門家はその分野に特化した個別のツールを使ってデータを管理しているため、各部分がどのように関連していてシステム全体としてどう構成されているかが分かりません。このために、設計変更があったときに与える影響の範囲を特定することができませんし、データを別のツールに複製して変更することを繰り返すと設計判断のもとになったマスターデータがどこにあるか分からなくなります。
    このような問題を解決するために、各ツールで分散管理されているエンジニアリング情報を統合することで、さまざまな開発成果物間のトレーサビリティ分析や影響分析を可能にするためのコラボレーション基盤技術を開発しています。具体的には、1.データ間の関連をツール横断的に獲得、表現、操作するための技術や、2.各ツールに分散管理されているデータを仮想的に一つのデータベースのように参照や変更ができるようにする技術の研究を進めています。