ビジネス・アナリティクス - 薄板一貫スケジューリング


薄板一貫スケジューリング


背景

製鉄所における薄板製品は、製鋼工程、熱延工程、冷延工程の順序で生産されます。 製鋼工程はスラブを生産し、熱延工程は熱延コイルを生産し、冷延工程は冷延コイルを生産します。 これらを効率よく操業するには最適なスケジューリングが欠かせませんが、 全工程のスケジュールを同時に最適化することはあまりにも複雑すぎて不可能です。 そこで、工程ごとに別々に扱いますが、 上流工程のスケジューリングを組み立てる際には下流工程の操業効率を考慮する必要があり、 下流工程のスケジューリングを組み立てる際には上流工程の結果を前提にする必要があるという、 にわとりと卵の関係が生じます。 これを回避する方法の1つとして次の方法があります:

  1. 最初に下流工程のスケジュールを下工程から上工程に向かって組み立て、操業効率がよくなる生産タイミングを各コイルに設定します。
  2. 次に上流工程を、その生産タイミングを考慮しながらスケジュールし、
  3. その結果を前提に、再度下流工程のスケジューリングを行います。

このような多工程スケジューリングを一貫スケジューリングと呼びます。

一貫スケジューリングの処理順序

図1. 一貫スケジューリングの処理順序

上図は一貫スケジューリングの処理順序を示したもので横軸は時間です。 製鉄の工程は効率性のために、鋼種やメッキの種類、表面処理などの単位をまとめた生産枠ごとに操業されますが、 図中の四角はそれを表しています。 工程ごとに生産枠の種類が異なるため、各工程での待ち時間にはばらつきがあり、 関連する生産枠を図にすると一般に上図のように下流工程になるほど広がりを持ちます。


冷延工程の一貫スケジューリング

薄板製品の納入先には自動車メーカーのように納期への要求が非常に厳しいお客様がおられます。そのために先まで見通した納期順守率の高いスケジューリングをする必要性があります。 製鋼工程を例えば1週間先までスケジュールする場合、 前述のように下流工程ではさらに先まで影響が及ぶため、最終工程では約1ヶ月のスケジューリングが必要になります。

冷延工程の中でも、 コイルの端と端を溶接して1本の鋼板として連続処理する工程(連続工程)では、生産枠の切り替えに段取りコストが発生するため、工程ごとに効率のよい生産枠の並びを考える必要があります。 連続工程以外のバッチ工程では、そのような制約がないため、上下工程の操業性には影響を与えません。したがって、冷延工程の中でも次の4つの連続工程間の一貫スケジューリングが重要になります:

冷延工程の一貫スケジューリングをFinishing Line Scheduling (FLS)と呼びます。


FLS問題の性質

冷延工程は4つの連続工程を含みますので、これらの一貫スケジューリングを行う必要があります。 つまり上下工程の操業効率を考慮し、処理タイミングが前後の工程で逆転しないようにする必要があります。 (処理タイミングが逆転しないことを縦連関がとれていると言います。) 生産枠間には段取りコストと段取り時間が発生することから、生産枠の効率的な並びを考慮する必要があり、 さらに各生産枠に割り当てられたコイルを連続処理する際の効率や品質を考慮する必要があります。 また、1ヶ月程度の視野でスケジュールを組み立てる必要があることから入力データサイズが大きく、1工程で5,000コイルほどにもなります:

生産枠内のコイルの並べ方により効率や品質に影響が出るのは、以下のような理由によります。 コイルを溶接して連続処理するため、隣り合うコイルの巾差は一定以内である必要があります。 巾差があると下図のようにトリムロスが発生するため、一定以内でもなるべく小さい巾差がよいとされます。 厚みに関しても隣り合うコイルの差がなるべく小さいことが必要です。 連続焼鈍工程では温度についても同様の制約が存在します。 さらに、コイルに接するローラー表面が摩滅することにより、ローラーのコイル両端の位置にキズが入ります。 したがって巾狭のコイルの次に巾広のコイルを流すと、ローラーのキズが鋼板表面に転写されてしまいます。 このキズのことをエッジマークと言い、高品質の製品を生産するためのコイルでは絶対に避けなければなりません。 このため、コイルの処理順序によって仕上がり品質に大きな違いが出ます。

連続工程におけるエッジマークとトリムロス

図2. 連続工程におけるエッジマークとトリムロス


アルゴリズム

冷延工程の一貫スケジューリングを以下のようなアルゴリズムで解いています:

色制約つき巡回セールスマン問題

図3. 色制約つき巡回セールスマン問題

結果サンプル

図4. 結果サンプル


FLSシステムの効果

FLSにより約1ヶ月先までの生産枠が作成されることで、 納期回答の精度を上げることができます。 また、上下工程の操業効率を考慮するため、 工程間の待ち時間が短縮され、在庫が圧縮されます。 上工程から材料が届かないことによる材欠休止も削減されます。 さらに、段取りコストの削減やコイル品質の向上の効果もあります。


参考文献