インダストリー・ソリューションズ - モデルベース・システムズエンジニアリング (MBSE)


モデルベース・システムズエンジニアリング (MBSE)


システムズエンジニアリングモデルの統計的同定

システム同定はシステムの入出力データから時間変化を伴う数理モデルを構築する方法として知られていますが、単なる古典的技術ではありません。むしろ、システムの複雑度が増すにつれて、さらに新しい技術が必要とされています。このプロジェクトの目的は、必要とされるパラメータ数が膨大であるような、数学的表現が困難な非常に複雑なシステムにおいて、物理的意味付けとリンクしたモデルを構築する方法論とそのモデルを利用する技術を開発することです。

システム複雑度が増すということは、単に詳細度が増えていくだけではありません。これまで別々にモデル化されてきた、流体物理に基づくモデルや機械的モデル、あるいは、化学反応といったモデルを統合したシステムを考えることが重要になっています。そうしたマルチフィジックスシステム[1]において、システム構成要素を表現する物理法則や化学法則といった第一原理に基づく方法は重要なモデリング手法です。しかし、システム動作についての物理・化学法則に基づく厳密な記述は細かすぎ、コントローラ設計のための数学的表現が困難となることもあります。そこで、システム(あるいはその一部)は、入出力データの統計的性質を表現できる数理モデルによって動作を記述するようなアプローチ、すなわち統計的性質によるモデル化がなされるべきと考えられます。しかし、同時に注意しなければいけないのは、マルチフィジックスシステムでは、同定するべきパラメトリックモデル[2]が、物理/化学法則といった導出背景とリンクされるべきであるという点です。一方、最近OMG(Object Management Group)によって、システムをモデリングするための記述言語としてSysMLが公開されています。これは、システム全体の構成やシステムの要求、あるいは様々な制約をブロックとして表現し、それらの関係を可視化するモデリング言語と捉えることができます。そこで、我々のプロジェクトではSysMLフレームワークにおけるシステム同定の方法論を研究しています。

一般に、システム同定の対象となるシステム(このような物理的実体を「プラント」と言います)は多くの複雑なサブシステムと階層構造を持っています。例えば、いくつかのサブシステムからなる複雑なシステムを制御対象と考えてみましょう。これまで制御エンジニアは制御戦略[3]を決定する際に、非線形制御戦略やその組合せといったように、選択理由を明確にしないまま、経験的に制御する方法や評価基準を考えがちでした。しかし、我々はここで、なぜその制御戦略が適しているのか、非線形性や戦略組合せはどのように関連しているのかということを再考し、モデルに反映したいと考えています。SysMLフレームワークにおいてシステム同定の結果を記述することで、それに対応する要件/物理法則との意味を明らかにでき、適切な制御戦略が使われているかどうかチェックすることができるようになります。その結果として、プラントが複雑で、同定するべきパラメータ数が多くても、これまでよりも明確でスマーターな制御戦略を導くことができます。さらにSysMLは階層構造も記述することができますので、サブシステムレベルでの複数最適コントローラを一つのシステムとして組み合わせた時、その組み合わせたレベルで道に迷うことなく、より良い制御戦略を導くことができます。

  • [1] 異なる分野の複数の物理モデルや、同時に発生する複数の物理現象を扱うシステム
  • [2] 有限個のパラメータによってシステムの構造を表現するモデル
  • [3] 制御戦略は制御工学における技術用語で、制御手法や手段の選択、また定量的な基準があればその評価式にどれを用いるか、といった方針を指す。制御戦略の例としては、単純に閾値をオーバーしたから一定量を減じるように制御操作するといったものや、参照値とシステム出力の差分に関する比例・微分・積分値を使って操作量を決定するPID (Proportional Integral Derivative) 制御、参照値とシステム出力の差分の2乗和を最小化するという明確な評価式に基づくLQR (Linear Quadratic Regulator)制御などがある。

テクノロジー

そこで、上記のようなモデリングを行うため、次のようなテクノロジーを研究しています。


モデルに基づくシステム同定クラウド (MbSIC: Model-based System Identification Cloud)

従来のシステム同定手法は、比較的少ないパラメータ数にフォーカスしてきました。しかし、システムの複雑さが増加するにつれて、データとパラメータの量が多くなる場合も出てきます。そのため、SysMLを用いてモデルの背景にある構造との関連を明確にしながら、大規模な計算能力を使った並列処理 (クラウド技術) で大規模非線形最小二乗法によるパラメータ推定を行い、モデリングするテクノロジーを研究しています。

さらに、プラントモデルによっては、物理則からの正確な記述が難しいため近似モデルが使われている場合があります。これに対して、多くの場合はモデル化に関する誤差や観測ノイズを全てまとめて白色ガウス性ノイズ[4]とみなしてきました。しかし、正確に観測してみると、この誤差成分にはスペクトル成分に偏りを含んでいることがあります。そうした場合、正確なパラメータを得るためには、誤差構造のパラメトリックモデルによってスペクトル成分の偏りを無くし白色化することが必要となりますが、そのようなモデル較正用の観測データは、パワーがとても弱く、本来観測したいデータのパワーに対してノイズのパワーが大きい状態 (低SN比) で観測されることが一般的です。一方で、従来のシステム同定手法は低SN比への頑強性を持っているとは限りません。こうした問題を解決するために、低SN比の状態でもシステム同定に必要な情報を抽出するための非線形フィルタなどを用いたシステム同定などの新しいテクノロジーも研究しています。

  • [4] 全ての周波数で同じ強度となる、正規分布に基づくノイズ

コントローラ設計と検証

SysML上では、数学的表現だけではない様々なモデル形式が混在していますので、適切な制御戦略を得るため、物理的意味を保存しながら最も効率的なパラメータ設定が可能となるようにシミュレーションが繰り返し行なわれます。したがって、システムパラメータと制御アルゴリズムのスムースな繋がりがSysML上で必要とされます。我々は、このためのツールを研究しています。

さらに、全体のシステム構造を記述したSysMLを用いて、詳細な振る舞いを分析・検証する研究も行っています。そこでは、システムの内部状態がシーケンス図やステートマシン図のアニメーションとして表示されるので、動作を容易に検証できます。また、同定したモデルがシステム要求の範囲内で適切に動作しているかどうか、他のシグナルフローモデルなどと組み合わせて検証するため、我々が開発したプラントモデルインテグレーション機能を使うことでシミュレーション可能です。これらのコントローラ設計ツールを用いて、我々はさらに新しい制御戦略についても研究をしています。